組織心理研究所の客員研究員、佐藤真美華による原著論文「自分らしさ感に着目した感情労働とメンタルヘルスとの関連についての検討――女性グランドスタッフを対象として――」が、『産業・組織心理学研究』第40巻第1号に掲載されました。
航空会社の女性グランドスタッフを対象に、感情を調整しながら働くこととメンタルヘルスとの関連を、仕事と私生活における自分らしさ感から検討した研究です。
感情労働を、自分らしさ感から捉える
接客などの仕事では、その場で求められる振る舞いに合わせて、自分の感情を調整することがあります。
こうした感情労働には、実際の気持ちを抑え、表情など外に表す感情を変える表層演技と、場面に合う気持ちになるよう内面の感情に働きかける深層演技があります。
本研究が着目したのは、仕事と私生活で自分らしくいると感じる状態である自分らしさ感です。感情労働との関わりを仕事の中だけで捉えず、私生活で自分の意思や気持ちに沿って過ごせているかも含めて検討しました。
仕事と私生活を捉える尺度を作成
調査は2019年に、国内の航空会社1社の協力を得て実施しました。研究1では、グランドスタッフへのインタビューをもとに質問項目を作り、女性265名の回答から、自分らしさ感を測定する4因子20項目の尺度を作成しました。
四つの側面は、私生活での過ごし方を自分で決められる統制感、主体性を発揮して仕事に取り組める主体感、仕事に影響されず私生活で自由に過ごせる自由感、職場の仲間とのつながりを感じられる所属感です。尺度には一定の信頼性と妥当性が確認されました。
研究2では、同じ会社の女性グランドスタッフ298名の回答を分析しました。メンタルヘルスの指標には、活力や熱意をもって仕事に取り組む状態であるワーク・エンゲイジメントと、ポジティブな精神的健康状態を表す心理的ウェルビーイングを用いました。
自分らしさ感を介した関連は、勤務年数によって異なる
研究2では、表層演技と深層演技が、自分らしさ感を介して二つのメンタルヘルス指標とどう関連するかを分析し、その関連が勤務年数によって異なるかも検討しました。
表層演技では、勤務年数の長短にかかわらず、仕事における主体感を介した負の間接的な関連が、ワーク・エンゲイジメントと心理的ウェルビーイングの双方でみられました。実際の気持ちを抑えて振る舞うことは、主体的に仕事に取り組めている感覚の低さを通じて、心の健康と関わる可能性があります。
深層演技では、勤務年数が長い場合に、私生活における自分らしさ感を介した負の間接的な関連がみられました。仕事のために内面の感情を調整することと心の健康の関係を考える際には、勤務時間外の過ごし方や感覚にも目を向ける必要性が示唆されます。
一方、勤務年数が長い場合には、表層演技と深層演技の双方で、ワーク・エンゲイジメントへの正の直接効果もみられました。自分らしさ感を経由しない関連は正方向、経由する関連は負方向と、同じ分析の中で異なる方向の関連が示された点が特徴です。感情労働と仕事への前向きさとの関連だけでは、自分らしくいられるかという側面を捉えきれない可能性があります。
仕事中だけでなく、私生活の感覚にも目を向ける
本研究は、感情労働を一律に負担とみなすのではなく、仕事への前向きさと結びつく側面と、自分らしさ感を損なうことに関わる側面を分けて考える視点を示しています。
働く人の支援を考えるうえでは、仕事でどのように感情を調整しているかに加え、主体的に働けているか、職場で仲間とのつながりを感じられるか、私生活で自分の意思に沿って過ごせているかにも着目することが考えられます。勤務年数によって関連が異なった点も、経験を重ねた人を含めて支援を考える手がかりになります。
研究の留意点
研究2は一時点の質問紙調査です。結果は変数間の関連を示すもので、感情労働が自分らしさ感やメンタルヘルスを変化させる因果関係を確定したものではありません。
また、対象は1社の女性グランドスタッフに限られ、勤務年数による違いも同じ人を長年追跡した結果ではありません。他の企業や職種への一般化、支援方法の効果については、今後の検証が必要です。
掲載論文
佐藤真美華(2026).自分らしさ感に着目した感情労働とメンタルヘルスとの関連についての検討――女性グランドスタッフを対象として――.産業・組織心理学研究,40(1),3–18.
本論文は冊子に掲載されています。学会の案内では、掲載論文は発刊1年後からJ-STAGEで全文を閲覧できます。
著者
組織心理研究所 客員研究員 佐藤真美華




