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【研究報告】「AI職場導入が働く人の心理に与える影響」に関する研究プロジェクトを開始

2026/07/09
目次

株式会社リーディングマークの組織心理研究所は、職場へのAI導入が働く人の心理、職業的自己、自分らしさ感に与える影響を明らかにするための研究プロジェクトを開始しました。

生成AIをはじめとするAIの職場導入は、業務効率化や情報整理、文章作成、判断支援などに活用され始めています。一方で、働く人にとってAI導入は、単なる便利なツールの追加にとどまりません。自分の仕事の役割はどう変わるのか。人間の専門性や判断の価値はどこに残るのか。AIの出力をどこまで信頼し、誰が最終的に確認するのか。こうした問いは、AI導入を受け止める働く人の心理に深く関わります。

本研究プロジェクトでは、職場AI導入を、単なる生産性向上や技術受容の問題ではなく、働く人が自分の仕事をどう意味づけ、どのように自分らしく働けるかという問題として捉えます。今後、職場AI導入の意味づけ・評価を測定する尺度の作成、職業アイデンティティや自分らしさ感との関連の検討、AI導入後の心理的適応プロセスの分析を進めていきます。

この記事では、本研究プロジェクトの第1回調査の概要を紹介いたします。また、この調査結果の詳細は、年度内の心理学系学会にて発表予定です。

第1回調査の概要

第1回調査では、勤務先でAI導入がある就業者400名を対象にWeb質問紙調査を実施しました。回答者には、仕事に最も影響しているAIを一つ想起してもらい、そのAIについて、仕事内容・役割・働き方の変化、脅威や不安、メリット、今後生じそうな変化の計4件を自由記述で回答してもらいました。分析対象となった自由記述は、1人4件、合計1600件です。

今回の回答では、対象AIとして生成AIを想起した回答者が317名、全体の79.2%を占めていました。そのため、本レポートの結果は、職場AI一般というより、生成AIを中心とした職場AI導入経験を多く含むものとして解釈する必要があります。

自由記述の分類方法

本調査では、回答者の自由記述を研究チームで分類しました。まず、先行研究レビューと研究チーム内での検討をもとに、AI導入に関する意味づけを整理するための分類軸を設定しました。その後、一部の記述を用いた試行的な分類と研究チーム内での協議を通じて分類枠を調整し、最終的に10カテゴリで整理しました。

なお、1つの自由記述の中に複数の意味内容が含まれる場合には、複数のカテゴリを付けています。たとえば、「業務は効率化したが、AIの出力を確認する手間は増えた」という記述は、AIを仕事の支援として見るカテゴリと、確認負荷に関するカテゴリの両方に分類されます。したがって、本レポートで示す割合は、一般的な意識調査のような「何%の人がその意見に賛成したか」ではなく、自由記述の中にその論点が出現した割合です。

自由記述から抽出された10の意味づけカテゴリ

自由記述の分類では、当初、先行研究レビューと研究チーム内での検討をもとに、機能的拡張評価、代替・価値侵食懸念、自律性・責任・統制、役割適合性・職業的整合感、協働認知、導入公正性・監視性の6領域を仮説的な分類軸として設定しました。その後、試行的な分類を通じて、正確性・信頼性・確認負荷、AIリテラシー・再学習圧力、セキュリティ・個人情報・倫理、影響なし・判断保留・不明を追加し、最終的に10カテゴリで整理しました。

  • 機能的拡張評価: AIが仕事の質、速さ、情報整理、発想、学習、判断材料を広げるという評価です。効率化、時短、負担軽減もここに含まれます。
  • 代替・価値侵食懸念: AIが自分の技能、専門性、役割価値、仕事の独自性、将来の立場を弱めるという懸念です。
  • 正確性・信頼性・確認負荷: AI出力の誤り、不正確さ、信頼しにくさ、確認・修正・やり直しの手間に関する記述です。
  • 役割適合性・職業的整合感: AI活用が自分の職務役割、仕事観、人間が担うべき仕事、自分らしい働き方と合うかに関する評価です。
  • AIリテラシー・再学習圧力: AIを使いこなすための学習、新しいスキル、取り残され不安、スキル格差に関する記述です。
  • 自律性・責任・統制: AI利用時の裁量、最終判断、修正可能性、責任の所在、判断理由の理解可能性に関する記述です。
  • セキュリティ・個人情報・倫理: 情報漏えい、機密情報、個人情報、著作権、倫理的問題に関する懸念です。
  • 協働認知: AIを道具、補助者、協働相手、主導者、代替者のどのような存在として捉えるかに関する記述です。
  • 導入公正性・監視性: AI導入の説明、透明性、公正さ、監視・評価・データ利用、現場の意見反映に関する記述です。
  • 影響なし・判断保留・不明: 影響がない、変化が分からない、まだ判断できない、特にない、といった保留的・不明瞭な反応です。

この分類から見えてきたのは、職場AI導入は単純な肯定・否定では捉えきれないということです。AIは、業務効率化や負担軽減の資源として受け止められる一方で、仕事の価値や役割が変わる不安、AI出力を確認する負荷、AIを使いこなすための再学習圧力、情報管理や倫理面の懸念も生み出していました。

図の読み方

図1から図3では、自由記述の分類結果をもとに、回答者ごとのカテゴリ出現率を比較しています。

調査では、回答者に対して、仕事内容・役割・働き方の変化、脅威や不安、メリット、今後生じそうな変化の4つについて自由記述で回答してもらいました。各図の割合は、この4つの自由記述のうち、少なくとも1つで当該カテゴリに触れた回答者の割合を示しています。

たとえば、ある群で機能的拡張評価が90%であれば、その群の回答者のうち、4つの自由記述のどこかで、AIによる効率化、時短、情報整理、仕事の質の向上などに触れた人が90%いた、という意味です。1人の回答に複数カテゴリが付く場合があるため、カテゴリの割合を合計しても100%にはなりません。また、これは自由記述から抽出されたカテゴリ出現率であり、因果関係を示すものではありません。

調査から見えてきた3つの実務上の示唆

第1の示唆: AIを「知っている」ことと「自分の仕事で使っている」ことは違う

図1では、回答者を、AIを自分が直接使っている人(直接利用, n=159)、自分も使うし組織も使っている人(組織併用, n=159)、自分は直接使わないが組織のAI利用の影響を受けている人(間接受影響, n=82)の3群に分け、自由記述カテゴリの出現率を比較しました。

ここで比較した主なカテゴリは、機能的拡張評価と、影響なし・判断保留・不明です。機能的拡張評価とは、AIが仕事の質、速さ、情報整理、発想、学習、判断材料を広げるという評価です。影響なし・判断保留・不明とは、AIによる変化が分からない、まだ判断できない、特に変化を感じていない、といった保留的な反応です。

結果を見ると、AIを自分の仕事の中で直接使っている人ほど、AIを機能的拡張として語りやすい傾向がありました。一方で、自分ではAIを直接使わず、組織のAI利用の影響だけを受けている人では、判断保留や不明瞭な記述が多く見られました。

この結果は、AI導入において、単に会社としてAIを導入するだけでは十分でないことを示しています。働く人が、自分の仕事の中でAIが何に使えるのかを具体的に体験できなければ、AI導入の意味は見えにくいままになります。

企業がAI活用を定着させるためには、ツールの説明だけでなく、実際の業務に即した利用場面を設計することが重要です。たとえば、文章のたたき台作成、情報整理、議事録要約、アイデア出しなど、失敗しても大きなリスクになりにくい業務から始めることで、働く人はAIの利点と限界を自分の仕事に引きつけて理解しやすくなります。

第2の示唆: AIへの理解は、説明だけでなく「使う経験」を通じて形成される

図2では、仕事でAIを使う頻度によって回答者を3群に分け、意味づけカテゴリの出現率を比較しました。

非利用・低頻度(n=105)は、仕事でAIをまったく使わない、または月1回未満しか使わない人です。中頻度(n=102)は、月に数回から週1回程度使う人です。高頻度(n=193)は、週に数回からほぼ毎日使う人です。

ここでも、機能的拡張評価と、影響なし・判断保留・不明を比較しました。機能的拡張評価は、AIを仕事の効率化や支援として意味づける記述です。影響なし・判断保留・不明は、AI導入の意味がまだはっきりしない、変化を判断できないという記述です。

結果を見ると、仕事でAIを使う頻度が高い人ほど、AIを機能的拡張として語りやすくなっていました。反対に、AIを使わない、または低頻度でしか使わない人では、判断保留や不明瞭な記述が多く見られました。

これは、AIへの受け止め方が、単なる個人の価値観やAIへの好悪だけで決まるわけではないことを示しています。AIを実際に使う経験を通じて、どの業務に役立つのか、どこに限界があるのか、どのような確認が必要なのかが見えてくる可能性があります。

実務上は、導入初期から全面的な活用を求めるより、小さく試せる利用場面を用意することが有効です。研修や説明会だけでなく、実際の業務に近い形でAIを使い、成功例と失敗例を共有することが、AI活用の現実的な定着につながります。

第3の示唆: AIの影響が大きい職場ほど、役割設計と学習支援が重要になる

図3では、AIが自分の仕事に与える影響の大きさについて、低・中・高の3群に分け、自由記述カテゴリの出現率を比較しました。

低群(n=123)は、AIが仕事にほとんど影響しない、またはあまり影響しないと回答した人です。中群(n=183)は、ある程度影響すると回答した人です。高群(n=194)は、かなり影響する、または非常に大きく影響すると回答した人です。

この図では、機能的拡張評価、役割適合性・職業的整合感、AIリテラシー・再学習圧力、影響なし・判断保留・不明を比較しました。

機能的拡張評価は、AIが仕事の質や速さを高めるという評価です。役割適合性・職業的整合感は、AI活用が自分の職務役割、仕事観、人間が担うべき仕事、自分らしい働き方と合うかに関する記述です。AIリテラシー・再学習圧力は、AIを使いこなすための学習、新しいスキル、取り残され不安、スキル格差に関する記述です。影響なし・判断保留・不明は、AI導入の影響をまだ判断できない反応です。

結果を見ると、AIが仕事に与える影響を大きいと感じている人ほど、AIを機能的拡張として語りやすい傾向がありました。同時に、役割適合性・職業的整合感や、AIリテラシー・再学習圧力への言及もやや増えていました。つまり、AIが仕事に深く入り込むほど、便利さは実感されやすくなる一方で、人間は何を担うのか、AIをどう使いこなすのか、どこまでAIに任せるのかという論点も出やすくなると考えられます。

AI導入の影響が大きい職場では、ツールの導入だけでなく、役割設計が必要です。AIが担う業務、人が最終判断する業務、人が確認すべきポイントを明確にしなければ、AIは効率化の手段であると同時に、責任の曖昧さや学習負荷を生む要因にもなります。

本調査の位置づけと今後の展望

今回の調査から見えてきたのは、AI導入は単なるツール導入ではないということです。AIは、業務を効率化する一方で、働く人の役割や専門性、判断責任、学習の必要性にも影響します。

本調査は、職場AI導入が働く人にどのように受け止められているかを把握するための予備的な調査です。自由記述にもとづく横断調査であるため、今回の結果から因果関係を断定することはできません。また、回答者が想起したAIは生成AIが中心であったため、評価・監視系AIやアルゴリズム管理を含む職場AI全体を代表するものではありません。

一方で、今回の調査からは、職場AI導入を働く人がどのように意味づけているかについて、いくつかの重要な論点が見えてきました。AIは効率化や時短の手段として受け止められる一方で、仕事の価値や役割の変化、AI出力の確認負荷、学び直しの必要性、判断保留といった複数の経験を同時に生み出します。

組織心理研究所では、今回の自由記述分析の詳細を、年度内に開催される学会で発表予定です。また、関連する論文投稿も準備しています。さらに、今回の結果をもとに、職場AI導入の意味づけや評価を測定する尺度の作成を進めており、次の調査も実施しています。

今後は、職場AI導入の意味づけと、職業アイデンティティ、自分らしさ感、ワーク・エンゲージメント、離職意図などとの関連を検討し、AI導入が働く人の心理と職場に及ぼす影響を継続的に研究していきます。

#プレスリリース#報告書#AI
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