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理論的に内定承諾率を捉える① ー応募者は最後の口説きだけで決めていない

2026/07/07
目次

新卒採用は「売り手市場」が続いています。そのため就活生は企業から内定を取得しても、じっくりと最終的に入社する企業を選ぶケースが増えています。

そのため企業の人事担当者の中には「いかに内定承諾率を高めるか」に悩んでいる方も多いと思われます。

内定承諾率を高めたいとき、企業はどうしても内定後の接点に目を向けがちです。

誰がオファー面談に出るか。どのように自社の魅力を伝えるか。承諾期限をどう設定するか。内定者フォローでどの社員に会ってもらうか。

いずれも採用実務では大切な論点です。しかし、内定承諾は内定後の一押しだけで決まるものではありません。

候補者は、内定を受け取ってから初めて企業を評価するわけではないからです。採用広報で見た言葉、説明会での印象、インターンシップで接した社員、面接官の態度、選考中の連絡、質問への答え方。こうした接点を通じて、候補者はこの会社で働く自分を少しずつ想像しています。

内定承諾は、最後の意思決定に見えます。けれども、その判断材料は最後にまとめて作られるのではありません。

採用プロセス全体を通じて、この会社は自分をどう扱うのか、この会社で働くと何が起きそうか、この会社を選ぶ理由を周囲に説明できるかが形づくられていきます。

Breaugh(2008)は、外部採用を、候補者に求人を知らせ、応募するかどうかに影響し、オファーが出るまで関心を維持し、最終的にオファーを受けるかどうかに影響する一連の活動として整理しています。採用とは、応募者を集める活動だけではなく、候補者の意思決定に継続的に関わる活動なのです。

この視点に立つと、内定承諾率の改善は、最後の面談で候補者を説得する技術ではなくなります。採用プロセス全体で、候補者の組織評価をどう形成するかという問題になります。

候補者は、見えない組織を手がかりから推論する

候補者は、入社前に組織の実態を直接経験できません。

職場の人間関係、上司の関わり方、評価の透明性、仕事の進め方、困ったときの相談しやすさ。これらは入社してみなければ完全にはわからないものです。そのため候補者は、採用プロセスで得られる限られた情報から、組織の特徴を推論します。

この考え方は、採用研究でシグナリング理論として扱われてきました。

Celani & Singh(2011)は、候補者が採用活動から得た情報を、直接観察しにくい組織特性を推論するためのシグナルとして解釈すると整理しています。面接や口コミのような個人レベルの接点も、企業広告や採用広告のような組織レベルの接点も、候補者にとっては組織を判断する手がかりになります。

企業側から見れば、説明会は説明会、面接は面接、連絡は連絡にすぎないかもしれません。しかし候補者側から見ると、それらはすべて組織の縮図として読まれます。

質問にどの程度具体的に答えるか。社員が仕事の難しさをどこまで語るか。連絡が遅れたときに説明があるか。面接官によって話す内容が大きくずれていないか。こうした小さな接点は、この会社では人がどう扱われるのかを推論する材料になります。

Rynes, Bretz, & Gerhart(1991)は、卒業予定の学生41名に対する縦断的なインタビューを通じて、候補者がリクルーターの能力、面接パネルの構成、採用プロセスの遅れなどを、より広い組織特性の象徴として解釈していることを示しました。

候補者自身は、必ずしも採用担当者や面接官に影響されていると明確に自覚しているわけではありません。企業を選ぶ理由としては、仕事内容、給与、勤務地、成長機会などを挙げるでしょう。しかし実際には、採用プロセスで接した人の態度や、情報提供の具体性、選考中の扱われ方が、企業への信頼や不信に影響しています。

採用接点は、説明の場であると同時に、組織への推論が起こる場でもあるのです。

初期接点は、候補に入る理由をつくる

候補者がある企業を最終候補に残している時点で、すでに多くの企業は比較対象から外れています。

つまり、承諾以前に、そもそも候補に入るか、上位候補に残るかという段階があります。

Collins & Stevens(2002)は、工学系学生を対象に、採用初期の活動が企業ブランドイメージを介して応募意図や実際の応募決定に関わることを示しました。ここで扱われた初期接点は、パブリシティ、スポンサーシップ、口コミ、広告です。とくに口コミは、企業への一般的態度と、職務属性の知覚の両方との関連が強いものでした。

採用初期の情報接点は、候補者に企業名を覚えてもらうためだけにあるのではありません。候補者が、その企業を比較対象に入れる理由をつくります。

自分に関係のある会社だと思えるか。そこで働くことを想像できるか。他社と比べるための材料を持ち帰れるか。初期接点の役割は、単なる認知獲得ではなく、候補者の中に企業評価の土台をつくることにあります。

この土台が弱いままでは、どれだけ最後に魅力を伝えても、候補者の中でその企業を選ぶ理由が育ちません。内定後の面談で急に志望度を高めようとしても、候補者にとっては、それまでの接点で見えていた企業像とのつながりが薄くなります。

だからこそ、採用広報、説明会、インターンシップ、社員接点は、内定承諾とは別の活動ではありません。内定承諾に至るまでの比較材料を、早い段階から候補者の中につくる活動です。

魅力は、条件だけでは伝わらない

企業の魅力は、給与や福利厚生のような条件だけで成り立つわけではありません。

Lievens & Highhouse(2003)は、雇用主としての魅力を、道具的属性象徴的属性から説明しています。

道具的属性: 給与、昇進機会、雇用安定、仕事内容、勤務地のような具体的で機能的な特徴
象徴的属性: 誠実さ、革新性、親しみやすさ、権威性のように、その組織に入ることが候補者にとってどのような意味を持つかに関わる特徴

この区分は、採用広報を考えるうえで役に立ちます。

候補者は、条件だけで企業を見ているわけではありません。

この会社に入る自分を好ましく感じられるか。この会社の一員になることを、周囲にどう説明できるか。自分の価値観や将来像と結びつけられるか。そうした意味の側面も、企業選びに関わります。

一方で、カルチャーや理念のような象徴的な魅力だけを語っても、判断材料としては弱くなります。候補者が知りたいのは、その理念が日々の仕事、評価、育成、配属、相談のしやすさにどう表れているかです。

抽象的な魅力は、具体的な働き方に翻訳されて初めて判断材料になります。

たとえば、「挑戦を歓迎する会社です」と伝えるだけでは足りません。若手がどの場面で提案できるのか、失敗したときに何が起きるのか、評価では何を見ているのかまで語らなければ、候補者は入社後の自分を想像できません。

「人が良い会社です」と伝えるだけでも足りません。困ったときに誰に相談できるのか、上司はどのようにフィードバックするのか、忙しい時期にチームはどう支え合うのかまで見えなければ、候補者にとっては比較できる情報になりません。

採用プロセス全体で、この会社を選ぶ理由を具体化する

内定承諾率を高めるために、最後の面談だけを強化しても限界があります。

候補者は、採用プロセスの各接点から企業を判断しています。採用広報は企業を知る入口であり、説明会やインターンシップは働くイメージを具体化する場であり、社員接点は入社後の働き方を推論する場です。

採用広報では、認知を広げるだけでなく、候補者がどのような比較材料を持ち帰るのかを見る必要があります。

説明会では、理念やカルチャーを抽象的に語るだけでなく、仕事、評価、配属、育成、相談資源に翻訳する必要があります。社員接点では、誰が何を語るかを偶然に任せず、候補者の不安に答えられる接点を設計する必要があります。

候補者は、企業が意図して発信したメッセージだけを見ているわけではありません。

むしろ、意図せず表れるふるまいをよく見ています。説明の不足、社員ごとの言葉のばらつき、仕事の難しさを語らない姿勢、質問への曖昧な返答。こうした接点の積み重ねが、この会社は信頼できるか、自分に合いそうか、入社後に大きなズレが起きなさそうかという判断につながります。

内定承諾率を高めるとは、候補者を最後に説得することではありません。

候補者が採用プロセスの各接点で、この会社を選ぶ理由を少しずつ具体化できるようにすることです。

承諾は、最後の一押しで生まれるのではありません。採用プロセス全体を通じて積み上がった組織評価の上にあります。

次に問題になるのは、選考体験です。面接は、企業が候補者を見極める場であると同時に、候補者が企業を見極める場でもあります。候補者が公正に扱われたと感じるか、十分な情報を得られたと感じるかは、その後の企業評価に残ります。

(組織心理研究所 主任研究員 丹野宏昭)

文献

Breaugh, J. A. (2008). Employee recruitment: Current knowledge and important areas for future research. Human Resource Management Review, 18, 103-118.

Celani, A., & Singh, P. (2011). Signaling theory and applicant attraction outcomes. Personnel Review, 40, 222-238.

Collins, C. J., & Stevens, C. K. (2002). The relationship between early recruitment-related activities and the application decisions of new labor-market entrants: A brand equity approach to recruitment. Journal of Applied Psychology, 87, 1121-1133.

Lievens, F., & Highhouse, S. (2003). The relation of instrumental and symbolic attributes to a company’s attractiveness as an employer. Personnel Psychology, 56, 75-102.

Rynes, S. L., Bretz, R. D., & Gerhart, B. (1991). The importance of recruitment in job choice: A different way of looking. Personnel Psychology, 44, 487-521.

#就職活動#採用面接#内定承諾率
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