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心理学と組織論からみた理想の1on1② 〜マネジメントの流れと1on1の力点の置き方〜

2024/10/23
目次

はじめに

 こんにちは。組織心理研究所の佐藤映です。

 前編の記事では、1on1を行う前提になるような、組織やマネジメントに関連する理論をご紹介しました。

 前編の記事内容をまとめると、以下のようなイメージです。

1on1を取り巻く時代背景

  • 世間では、1on1を行う目的として、管理職と社員がコミュニケーションを密に行うことで、社員が自律的に仕事に向き合い、やる気やエンゲージメントを高め、やりがいをもって働けるようになることであるとされている。

  • しかし実際には、コミュニケーションは活性化しているが、社員の自立性や生産性の向上は実感を得にくい。

  • 様々な時代背景のなかで1on1の有効性が叫ばれている一方で、実質的に価値のある1on1を提供できている現場はまだまだ少ない。

  • 価値のある1on1を提供するためには、理想の組織やマネジメントについての現代的な理論をおさえ、それらを参考にコミュニケーションをしていくべきである。

各種の理論

  • 学習が促進される良い状態の組織は、関係の質、思考の質、行動の質、成果の質の4つの好循環によってもたらされる。(成功循環モデル)

  • 関係の質を深めるには、心理的安全性の理論が参考になる。

  • 思考の質や行動の質を深めるためには、良質なフィードバックや、権限委譲、サポート資源の提供、個人の価値観や考え方の理解、業務における負担やプレッシャーの度合いを加味して、ワーク・エンゲイジメントや従業員エンゲージメントを高める工夫が有効である。

  • それらの地道な活動によって、従業員のウェルビーイングが促進され、組織として生産的な状態を目指し、また維持できるようになる。

 上記が前編の記事のダイジェスト版です。

 まとめると、生産性の高い組織をつくるための、従業員のマネジメントの一環としての1on1は、以下の要素が重要です。

1.信頼関係を構築する(関係の質を深める)

2.良質なフィードバックを行う(思考の質を深める)

3.具体的な行動目標を自律的に立ててもらい、権限委譲して実行させる(行動の質)

4.職務環境を維持・改善する(仕事要求度の調整・ウェルビーイングの実現)

 では、上記を進めていくために、どのような1on1を実施すべきなのでしょうか。

 本記事では、より具体的なことに切り込んで解説してみようと思います。

マネジメントにおける1on1の位置づけ

 1on1の具体的な方法をお伝えする前に、仕事の中での1on1の位置付けについて整理しておきたいと思います。

 1on1は、いわば単なる日常のなかの面談です。この面談が、より長いスパンでの仕事のサイクルの中でどのように位置付けられるのかを意識しておかないと、付け焼き刃のコミュニケーションに終始してしまいます。

 そこで役に立つのが、世界幸福度調査やストレングスファインダーで有名なギャラップ社による提言です。

 ギャラップ社の研究者であるクリフトンとハーターは、「ザ・マネジャー」という本で、マネジメントの全体感についてまとめています。*

 彼らは、マネージャーがコーチングを行うための3つの条件と、パフォーマンスを向上させる5つの会話について説明してくれています。

コーチングの3つの条件

1.期待値を設定する

2.継続的にコーチングする

3.進捗レビューを行う(アカウンタビリティを生み出す)

1.期待値を設定する

 上司はメンバーとともに、目標に対する役割と期待値を明確に設定してすり合わせを行うことが大切です。

 この工程がなければ、メンバーはなんのために働いているのか、目標を達成したらどんな良いことがあるんだっけ、ということがわからなくなってしまいます。

 仕事の意義や達成感を感じられるよう、期初にメンバーへの期待をすり合わせましょう。

 この際、目標はただ組織の上から降りてくる数値をそのまま伝えるというだけではなく、仕事の内容とその達成による成長角度、メンバーが磨きたいと思っているスキルや能力との兼ね合いで、適切に翻訳しながら伝え、「すり合わせる」ことが重要です。

「上司が目標設定に関与している従業員は、そうでない従業員に比べて約4倍もエンゲージメントが高いが、それを経験している従業員は、わずか30%しかいない」

2.継続的にコーチングする

 目標を設定し、期待値を渡してから、期末の評価にいたるまで、上司がほとんどかかわらないというのは大変もったいない時間の使い方です。

 上司は部下が部下自身の目標を目指してどのような行動を行い、どのような進捗を得ているのか確認しながら、適宜ポジティブなフィードバックや、伸びしろを改善するためのネガティブ/ギャップフィードバックを行う機会を作る必要があります。(これがのちに述べる1on1での仕事のひとつになります)。

 より本質的なことは、上司が部下に関心を持って知ろうとしている態度を示すこと、気にかけているということが伝わること、が重要です。

 ただしこれは「管理されている」「自由が奪われている」というほどに詳細には行わないことがミソです。

 部下の自律性や自由裁量度を尊重しながら、定期的に状況を共有してもらい、できていないことだけでなく、必ずできていることに対して感謝を述べるようなコミュニケーションが必要です。

「日常的にフィードバックを受けている従業員は、年に1回以下のフィードバックしか受けていない従業員に比べて約3倍もエンゲージメントが高い」

3.進捗レビューを行う(アカウンタビリティを生み出す)

 期末には、いつもより少し長い時間を確保し、期間全体で何をやってきたのかという仕事の進捗の振り返りと、評価とその背景のフィードバックを行います。

 どんな能力を伸ばせたのかという成長実感へのフィードバック、事業戦略や現時点の足元の事業の状態、組織やチームの状態、その他部下の私生活やウェルビーイングの状況について振り返りを行い、この期間で仕事にまつわる部下や会社がどんな変化を遂げたのか、説明責任を果たせるようにしましょう。

 特にメインのアジェンダとなるのは、どのような成果をあげられたのか、そこに部下はどんな貢献をできたのか、部下自身はどう成長できたのか、まだ伸びしろとして残された課題はなにか、評価結果とその公正性、等についてです。

「年に2回は進捗状況のレビューを行う。従業員の目的や目標、評価基準、能力開発、戦略、チーム、私生活などについて話しましょう。進捗レビューでの会話は、成果志向で、公正かつ正確で、能力開発を中心としたものでなければなりません。」

 クリフトンらは、特に部下のパフォーマンスをチェックする時には、部下の能力を伸ばす能力開発とセットで行うことが重要だと指摘します。

 そうでなければ、パフォーマンスの確認はただ「詰められている」「怒られている」という体験になってしまい、事業や仕事と結びつけづらくなってしまうからです。

「個人的な能力開発とパフォーマンス測定を組み合わせましょう。そうしないと従業員はパフォーマンス測定を「脅威」と感じ、能力開発は、ビジネス目標から切り離されたものになってしまいます。」

パフォーマンスを高める5つの会話

1.職務の明確化と期待値の設定(期初の相互理解とすり合わせ)

2.クイックコネクト(日常的な声掛け)

3.チェックイン(日常の定例1on1の基本アジェンダ)

4.育成型コーチング(日常の定例1on1の臨時アジェンダ)

5.進捗レビュー(期末のロング1on1による進捗共有と評価、レビュー)

 この5つの会話技術は、部下のパフォーマンスを高める半期ごとのマネジメントルーティンを想定して構成されています。

 クリフトンらのいうことをまとめると以下のようになります。

初期段階(上司ー部下タッグの開始時)

1.職務の明確化と人間関係の構築(相互理解とすり合わせ)

頻度:年1回、あるいは職務や役割が替わったときに1〜3時間程度。

内容:部下ひとりひとりの強みを知り、その人の強みと組織全体の目標に合致した期待値を設定する。

   役割における成功の定義や同僚の期待値との連携を明確にする。

目的:部下の役割や目標、評価基準、能力開発、戦略、チーム、ウェルビーイングについて深く理解する。

中盤(ルーティンの実施)

2.クイックコネクト

頻度:最低週1回以上、短時間(1〜10分)の軽いやりとり(メールや電話、立ち話など)。

内容:部下の当事者意識を醸成し、無視されていると感じさせないようにする。

   ビジネス上の問題が発生したときに迅速に対応し、正しい方向に導く。

目的:継続的なコミュニケーションを通じて部下の強みに根ざしたサポートを行う。

3.チェックイン(日常の1on1の定期アジェンダ)

頻度:月1〜2回、10〜30分程度。

内容:それまでの成功と障害を振り返り、業務の優先順位を再設定する。

   期待値や仕事量、目標、ニーズについて計画的に話し合う。

目的:部下の業務進捗を確認し、必要なサポートやアドバイスを提供する。

4.育成型コーチング(日常の1on1の臨時アジェンダ)

頻度:必要に応じて10〜30分の短時間で実施。

内容:従業員のキャリア育成を行い、プロジェクトの任命やキャリア開発の機会に関する会話をする。

   従業員のやりたいことや成長の機会を模索し、方向性を示す。

目的:部下の強みや成果に焦点を当て、スキルトレーニングや行動計画の策定を支援する。

終盤(半期ごとのレビュー)

5.進捗レビュー

頻度:半期に1回、1〜3時間程度。

内容:成功を祝い、今後の達成に向けて準備し、能力開発と成長の機会を計画する。

   以下の内容について深く話し合う。

   ・部下にとっての目的:「なぜそれをしているのか」「何をしているのか」を聞く。

   ・部下にとっての目標:「何を成し遂げたいのか」を聞き、組織の目標と一致するように支援する。

   ・評価基準:進捗をはかるためのスコア策定。

   ・部下の能力開発:将来の成長や能力開発について話し合う。

   ・部下の戦略:目的や目標、評価基準、能力開発について批判的に検討し、行動計画にまとめる。

   ・部下にとってのチーム:従業員のベストパートナーを特定する。

   ・部下のウェルビーイング:望むなら生活全般について話し合う。

目的:パフォーマンスの確認と成長の計画を行い、次のステップに向けた目線合わせを行う。

 これらの段階を通じて、上司は部下との信頼関係を築き、継続的にサポートし、パフォーマンス向上と成長を促進することが求められます。

 まとめると、基本的なマネジメントサイクルは、半期や1年を単位としながら、マクロな目標設定とその評価という大きなサイクルがあり、その中に週単位・月単位の定期マネジメントとして1on1があり、さらに日常のちょっとした声かけなどのマイクロマネジメント行動がある、というように、大きな時間の流れから、毎日の振る舞いへと至る階層構造があるということになります。

 より長い枠組みの中での目標がしっかり設定されていなければ、日々のマイクロなマネジメントにおける関わり方にもブレが生じてしまうので、この大きな枠組みをまず明確に設定しながら、そこを基点として日々の、あるいは週次・月次のマネジメント行動を行っていくことが肝要です。

 1on1は、この時間階層では中間的な位置づけにあたり、日々の声掛け(マイクロ行動)と、半期や1年の目標設定・進捗レビューとをつなぐ、足元を確認する時間になるようにするというところがポイントです。

 1on1という営みは、階段に例えるならば踊り場であり、登山に例えるなら給水・休憩スポットです。登っている足のペースを止めて振り返り、目指す頂までの道のりを再確認するような、そういう時間になることが目指されるべきですね。

 毎回の気分で面談するのではなく、このように長い目で見た目的を意識してみると良いでしょう。

1on1で何をするのか

 では、いよいよ1on1の中身に入っていきましょう。

 前章で示したようなマイルストーンを確認する定期面談としての1on1。具体的にはどのようなやりとりを行うことが望ましいのでしょうか。

 それを説明するために、モチベーション向上に関わる「自己決定理論」を導入しましょう。

自己決定理論とは

 自己決定理論(Self-Determination Theory)とは、1985年にデシ(Deci)とライアン(Ryan)が提唱した、モチベーションに関する理論です。

 人に言われて、あるいは必要にかられて、仕方なくやる時のモチベーション(外発的動機づけ)が、自分で必要性を認識し、自分でやりたいと感じて取り組む際のモチベーション(内発的動機づけ)に変化していくプロセスについて明らかにした理論です。*

 誰しも、やらされ仕事はつまらなく感じ、パフォーマンスを発揮しづらいですが、自分の趣味ややりたいことであれば、楽しくやりがいを持って取り組み、パフォーマンスを発揮することができます(またそれに喜びを感じられます)。

 仕事が趣味のように楽しくやりがいのあるものと感じられるようになるには、どのような要素が必要なのでしょうか。

 自己決定理論では、外発的なモチベーションの状態から、内発的なモチベーションがある状態にいたるには6つの段階があるといわれていますが、この段階を高め、モチベーションとウェルビーイングを向上させるためには、以下の3つの欲求を満たす必要があるといわれます。

1.自律性の欲求(自分でやりたい)

 誰にも強制されず、自分の意志や主体性によって行動を決められると感じたいという欲求。

 全部一人でやることではなく、人に助けを求めるかも自分で決められるということ。

2.有能感の欲求(自分はできる)

 自分には十分な能力が備わっていて、任されたことは努力すれば達成できるはずだと感じたいという欲求。

 自分の行いによって成果が生まれ、成長できていると感じたいこと。

3.関係性の欲求(ひとりじゃない)

 周りの人から関心をもってもらえていて、自分は一人じゃないんだと感じたいという欲求。

 上司やチームの仲間だけでなく、家族や友人、社会への貢献など広い範囲を含む。

 上記の3つの欲求を満たしてあげるようなコミュニケーションやフィードバックを上司から行っていくことが、メンバーのモチベーションの向上に役立ち、パフォーマンスを発揮することにつながっていきます。

 先程の議論であった、コーチングの3条件や、パフォーマンスを向上させる5つの会話とも矛盾しないですね。

 自律性は、ただ目標を与えるだけでなく、部下自身のやりたいこととの「すり合わせ」が重要、つまり自分が目標設定に参加していると感じさせることが重要だったわけです。また日々の仕事においても管理監督を強めるのではなく、自律的に進めさせ、自律的に報告させるということが大切です。

 有能感については、フィードバックの際に必ずポジティブな要素を指摘するということはもちろん、日々のコミュニケーションにおいても、部下のしてくれた行動に対するねぎらいや感謝、部下の出来ているところを指摘して成長実感を感じさせる、といったマネジメント行動が効きます。

 関係性については、まずは上司が部下に興味関心を持ってコミットし、部下のプロフィールや性格の理解に努める行動それ自体によって、部下が「上司に関心をもってもらえている、期待されている」という思いを強めることができます。加えて、チームメンバー同士の交流を促したり、仕事が社会に与える価値や影響を強調して話をするなど、目先の関係からより大きな枠組みでの社会とのつながりを認識させるということが重要でしょう。

1on1をどのように進めるのか

 ここまで、1on1の背景となるマネジメントの理論や、1on1が仕事の大きな流れの中でどのように位置づけられるのか、またそこで部下に何を体験させるべきなのか、ということを見てきました。

 これでも十分かと思うのですが、最後に部下の状態に合わせた1on1の流れのイメージを紹介しておきます。

 部下の状態、と申しましたが、実際には組織やチーム全体の状態にも関わってきます。成功循環モデルで見てきたように、関係構築が十分ではない状態のときや、組織やチームへの信頼感が薄まってしまっている状態のときには、より高い目標やパフォーマンスを求める行動は機能しづらいからです。

 関係の質、思考の質、行動の質、成果の質の順番で深まっていくという指摘があるように、関係の質がくずれている時には、それ以降の思考や行動・成果の質はあげづらいということになります。

 ここでは、関係の質、思考の質、行動の質、それぞれを深める目線での1on1の流れを考えてみましょう。

 具体的な流れの説明の前に、1on1で部下と接する上司のモード(態度)を大きく2種類にわけておきたいと思います。

 ずばり「共感モード」と「指導モード」です。

共感モード

 このモードの上司は、部下のマイナスな気持ちや課題を受け止め、話を聞いてわかってくれる存在という体験を強めるためのモードです。

 具体的な行動としては、傾聴や共感になります。部下が話すことがどのような突飛な内容だったとしても、まずは四の五の言わずに聞いて受け止め、理解を示す。

 「そういう風に感じることもあるよね」「なるほど、そういうことがあって、そんなふうにいわれたら、そりゃそう感じるのも無理はない」「君の気持ちはよく分かる。話してくれて感謝します」といったように、まずは部下の話をなんでも受け止める姿勢が大切になります。

 

 このモードでは、加えて余計なことを言わないという意識が大切です。部下は指導やアドバイスを求めているのではなく、まず上司に状況や感情をわかってほしいと思っています。

 問題を解決したいのではなく、成長したいわけでもなく、ただ苦しさをわかってほしいのです。

 ですから、「そんな時はこう考えるといいよ」とか「僕も似たような経験をして、こんな風に解決したから、やってみて」などのアドバイスは、かえって部下の信頼を損ねることにつながります。

 捉え方を変えて見たり、前向きに頑張ろうぜ!と励ましたくなるかもしれませんが、このモードではグッと堪えて、部下の悩みやネガティブな気持ちの吐露を受け止めることが大切です。

 たとえば、過度にポジティブな考え方を押し付ける形になると、部下は「聞いてもらえなかった」「あの上司はわかってくれない」という体験で着地し、そのネガティブな思いは「上」ではなく「横」に展開されることとなってしまいます。

 それは結果的に、チーム全体と上司の間に温度差や距離が生まれることにつながってしまうので注意です。

 (とはいえ、上司がポジティブでいることもまた大切です。そのあたりのバランスや考え方については、以下の記事も参考にしてみてください。)

 https://diamond.jp/articles/-/352075

 そのうえで、「どんな状態になったら嬉しいか」「理想的な状態はどうか」「自分で取り組んでみたいことや、やれそうなことはあるか」「自分では難しくて、上司に支援してほしいことはあるか」等の「問いかけ」をメインにコミュニケーションを行い、部下が現状を冷静に振り返り、思考を整理することに寄り添うことが大切です。

 このモードで重要なのは、思考転換を促したり、情報提供することではなく、本人の言うことを受け止めながら、本人の振り返りを促すことです。

指導モード

 このモードの上司は、部下の現実的な状況を冷静に理解しながら、うまくいっていることを称賛し、伸びしろがあるところを指摘して改善方法を伝える、といったより具体的な指導を行うモードです。

 もちろん、共感モードのときのように、感情的な苦しさが出てきた場合には、それを否定せず受け止めながら、現実的な事実や状態を明確に言語化して伝え、どうしていくべきなのかを共に考えるという行動が必要です。

 人は感情を感じてしまうものであり、それを否定されるとどうしようもなくなってしまいます。感情と事実はわけて、感情はうけとめつつ、事実は事実として認識できるように対話しましょう。

 このモードで大切になることは、指導やアドバイスをする際に、上司が自分本位になりすぎないことです。

 上司がfor meな態度で部下に関わってしまうと、部下はやる気を失います。

 あくまで所属する組織や事業を主語にして、部下が自律的に設定した目標と、事業目標を達成するための方略としてのアドバイスを行いましょう。

 まさかとは思いますが「君が頑張ってくれないとオレが怒られる」とか「オレより経験が少ないのに出来ると思わず、オレから学べ」とか言ってしまっていないでしょうか。

 客観的な目線で、あくまで「本人と事業の成長のために」必要なことを指導するようにすることがコツです。

 そうして視野を拡げて対話することが、結果的には上司であるあなた自身の成長につながります。

目的別の1on1の流れの例

 さて、改めて1on1の進め方についてまとめてみましょう。

 相手とのフェーズに応じて、2つのモードの割合を使い分けながら、1on1を進めるイメージをもっていただければと思います。

1.関係の質を深める1on1

 部下との信頼関係がまだ十分に構築されていないと考えられる場合には、まずは共感モードを中心とした1on1が必要です。

 ここでのポイントは、枠組みの設定、内省促進と受容・共感、その後の支援体制の伝達、です。

枠組みの設定

 まずは1on1の枠組みの設定を明確にし、安心して話せる環境をつくることが大切です。

 日時はいつで、何分話すのか。話したことは誰にどのように共有される可能性があるのか、共有してほしくない話は言わないでおいてもらえるのか、等、面談の枠組みやルールを明確に伝えることから始めると良いです。

 また、一度設定した面談は優先度を上げてリスケジュールしないことをおすすめします。

 リスケは「軽く扱われているんだな」「優先度が低いんだな」と思わせ、部下の信頼を下げてしまいます。

内省促進と受容・共感

 メインアジェンダは、相手が日々感じていることを吐き出してもらい、それを受け止めて聞くことです。

 なにか困っていることはあるか、それはどんな背景でそうなっているのか、いつごろからそうなのか、どんな状態になるのが理想か、自分でできそうな工夫はあるか、支援がほしいところはあるか、等の問いかけを中心に話を進め、部下が「話を聞いてもらえた」「気持ちを受け止めて理解してもらえた」「なにか良くなりそうな期待感を感じられた」という体験が出来るように振る舞います。

 ここでは職務上の事実やスタンスなどは関係なく、まずは部下の状態理解と受け止めを重視します。

その後の支援体制の伝達

 話を聞いたうえでのクロージングは、じゃあどうしていくかということです。すぐに解決できそうな悩みであればいいのですが、往々にしてそうではないことが多いです。

 その場合は、まず話を聞くことだけでも関係の質に対して大きな意味がありますので、無理に解決を急がなくても大丈夫です。

 むしろ継続的に相談に乗るよというスタンスや、誰かサポートしてくれる人をつける、より上層部に報告して改善施策を考えてもらえるか掛け合ってみる、というように、部下のために何か行動を起こすよという姿勢を見せることが大切になります。

2.思考の質を深める1on1

 部下とのある程度の関係が構築されている状態であれば、仕事の質を上げてもらうために、部下の能力状態や概念的思考のレベル感を把握し、部下が自己理解を深められるようなコミュニケーションを行うことが大切になってきます。

 ここで大切なポイントは、フラットなフィードバック、事業や部下を主語とした期待をもたせるコミュニケーション、です。

フラットなフィードバック

 良質なフィードバックを行うことが大切であることは、本記事の冒頭でも述べました。

 部下の仕事についての話を聞いていると、ついつい「視野が狭いな」「目先のことしか考えてないな」「自分の行いのレベル感が理解できていないな」と、足りていないことばかりに目がいってしまいがちです。

 ネガティブな部分だけでなく、部下の行動によって進捗している部分、役に立っている部分など、出来ていることを必ず指摘し称賛するようにしましょう。これが有能感の醸成につながるからです。

 合わせて、ここでは共感モードの対話も織り交ぜて、部下の伸びしろに対して理解を示していくことも大切です。

事業や部下を主語とした期待をもたせるコミュニケーション

 部下の不足している部分ばかりに目がいってしまうと、必然的に上司側の欲求としては、出来ていないことを指摘して、自分のほうがすごいんだぞ、と権威を示したくなることもあると思います。

 そこはグッと我慢して、今の部下が自分自身の状況や視野に対して理解を深められるような、部下の立場にたって思考を拡げられるようなコミュニケーションを意識しましょう。

 その際には、やはり事業として、チームとして何を目指しているのか、そのために部下にどんなことを期待しているのか、といったことを明確にするようにしましょう。

3.行動の質を深める1on1

 信頼関係も十分にあり、部下が上司のフィードバックを素直に受け止めて吸収できるような状態になっているときには、より高いパフォーマンスを出してもらうための具体的な面談内容になることがおすすめになります。

 ここでは、より高い視座でのフィードバックや、アクションの質に対する具体的なフィードバック、ストレッチな目標を与え、信じて任せてみるなどのコミュニケーションが有効です。

 ここでは、多少の負荷をかけても関係性が崩れるということは少なく、むしろ部下は「期待されている」とやる気を高めてくれる可能性のほうが大きいため、やや厳しい現実を提示しながら、部下に何が求められているのか、今のままで満足せずもっと上を目指して欲しいこと、そのためにどういう行動をすべきかということについての助言やアドバイスを中心に行いましょう。

 自律性、有能感、関係性の3つの欲求をみたすことを改めて思い出していただき、部下が自律的に取り組めるよう過度な管理を控えつつ、いつまでに何をやってほしいのかということ、必要があればそのために誰を巻き込んでどう進めるべきかというアドバイスなども良いと思います。

 加えて、いままでの部下の貢献がいかに素晴らしいか、いかに事業や組織がその部下の力によって助かってきたのかという感謝と労いも忘れずに(有能感を刺激しましょう)。そのうえで、部下に期待していること、任せたいと思っていること、これからさらに上の仕事を任せたり、職位を上げたいと思っていることなども伝え、部下へのコミットメントを明確にしましょう(関係性の欲求)。

 ここにいたるやり取りが積み上がっていれば、部下はあなたの期待に答えて、きっと成果を自力で生み出せるようになっているはずです。

 上司自身は「大丈夫かな」と不安になることもあると思いますが、不安を相手に押し付けず、自分で処理して部下を信じましょう。

 1on1についてまとめます。

 関係の質、思考の質、行動の質のどこにフォーカスするかによって、共感モードと指導モードのバランスを使い分け、部下のフェーズによって意図的に1on1の流れを変えるようにしましょう。

 自分と部下との間で何が起こっていそうか、どのような関係か、にあたりをつけながら、力点を置く場所を変えてコミュニケーションしていくイメージです。

さいごに

 いかがでしたでしょうか。

 1on1についての理論や、マネジメントにおける位置づけ、より具体的な対応のイメージをもっていただけるような流れの提示を行ってきました。

 特に関係の質が深い状態を維持することは大切ですが、そこで気をつけるべきこととしては、「相手の話を受け止めることは、仕事の水準や目標を下げさせることではない」ということです。

 仕事が難しすぎる、目標が高すぎる、と嘆いて文句をいっている部下に対して、じゃあ目標を下げようかということは、パフォーマンスの向上につながらないだけでなく、部下に期待していないというメッセージにつながってしまいます。

 苦しい感情や、困っていることは受け止めて共感をするべきですが、じゃあそういう苦しい状態だということを共にわかちあって共有したうえで、今の目標をどうやって挑戦していくか、を一緒に考えるという「寄り添う姿勢」が大切になります。

 心理的安全性の理論においても、ただ言いたいことやリスクのある発言をさせるというだけでなくて、高い目標を維持することも大切だと述べられています。仕事のレベルを下げて安心させることは、ただ甘やかしているだけになってしまいます。

 人には共感してほしいフェーズと、指導がほしいフェーズがあり、どちらがメインになるかは仕事の負荷の状況や、周りとの関係性等によって常に揺れ動いています。

 そのリズムを感知して、いま目の前の部下が求めていること(≒今の部下に必要なこと)はどちらなのか、それを見極めながら、日々の1on1に向き合ってみていただくと、新しい発見につながることもあるのではないかと思います。

文献

*Jim Clifton & Jim Harter. (2019) IT’S THE MANAGER: Moving From Boss to Coach, Gallup,Inc. (古屋博子訳,2022『ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる ボスからコーチへ』)

*Ryan, Richard M., and Edward L. Deci.(2017) Self-determination theory. Basic psychological needs in motivation, development, and wellness.

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