1.はじめに
気付けば師走も半ばを過ぎ、ついに2025年も終わりまであと10日を切りました。
年末年始を前に仕事も大詰めに入り、多忙な日々を送っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
「この忙しさを乗り切れば年末年始休暇だ!」と気合いを入れてラストスパートをかけている方もいらっしゃることでしょう。
年末年始が休みの方の中には、どのように過ごすか予定を立てている方もいらっしゃることと思います。
温泉に行ったり、家でのんびり過ごしたり、観光地に旅行に行ったり・・・
ここで、これまでの休み明け(普段の週末もそうですが)のことを少し思い返してみてください。
「ゆっくり休んだはずなのになんだか身体が重い」、「時間はあったのに結局休めた気がしない」と感じたことはないでしょうか。
もしそう感じたことがあるなら、それは自身の体力の問題ではなく、「休み方」がうまくいっていない可能性が高いです。
今回は、最新の研究結果に基づき、なぜ休むのが下手なのか、そもそも休むことはなぜ重要なのかについてご説明した後、「どう休めば良いのか」についてご紹介いたします。
「休んだはずなのに疲れている」を防ぎ、休み明けに良い状態でスタートを切るためのご参考になれば幸いです。
2.退勤=休み?:「心理的ディタッチメント」について
働いている人にとって、「職場から出ること(退勤すること)」=「休息」だと捉えられがちですが、研究では単にPCを閉じてオフィスや自宅のデスクから物理的に離れるだけでは、疲労は回復しないことが明らかになっています。
なぜ回復しないのか、どうすれば回復するのか―――――
その鍵を握る概念が「心理的ディタッチメント(Psychological Detachment)」です。
「心理的ディタッチメント」とは、「勤務時間外に、仕事のことを考えない・気にしない状態」と定義されています(Sonnentag & Bayer, 2005)。
Sonnentag博士らによると、物理的に仕事から離れていることと、心理的に仕事から距離を置くことは別物であり、真の回復には「心理的なスイッチオフ」が必要になります。
メタ分析(複数の研究を統合した分析)の結果、仕事をしていない時間に仕事から心理的に距離を取れている人は、以下の傾向があることが示されています(Wendsche, J., & Lohmann-Haislah, A., 2017)。
- 人生に対する満足度が高い
- 睡眠の質が高い
- 身体的な不調が少ない
- 疲労感が低く、ウェルビーイングが高い
つまり、どれほど長い休暇を取っても、頭の片隅で仕事のことを考え続けていれば、出勤している時と同じように心身のリソースを消耗し続けていることになるのです。
3.「回復」の正体とその重要性
では、そもそも「回復」とは、科学的にどのような状態を指すのでしょうか。
研究では、「仕事のストレッサーによって引き起こされた心身の負担(strain)を軽減、または排除するプロセス」と定義されています(Sonnentag, Venz, & Casper, 2017)。
私たちは仕事をする中で、身体的・精神的なリソースを消費しています。この減ってしまったリソースを元のレベルに戻すプロセスが「回復」です。
このプロセスがうまくいかないと、減ったリソースを補うためにさらに過剰な努力が必要になり、疲労が蓄積していくという悪循環に陥ってしまいます。
最新の研究では、「回復」を以下の3つの概念に分けて説明しています(Steed, Swider, Keem & Liu, 2021)。

これら3つの概念は密接に関連しています。
負荷の低い活動(Low-duty activities)は良好な「回復経験」を促し、それが最終的に「回復したという実感(回復状態)」へとつながります。
一方で、家事などの負荷の高い活動(High-duty activities)は、「心理的ディタッチメント」や「リラックス」を妨げる要因になり得ることが示されています。
さらに、回復は単に「疲れを取る」だけにとどまりません。
メタ分析の結果、回復(の中でも特に回復経験)は以下の要素と正の関連があることが示されています(Steed, Swider, Keem & Liu, 2021)。
- 心身の健康:ポジティブな感情の増加、睡眠の質の向上、全体的な健康状態の良さ
- 職務パフォーマンス:タスクの遂行能力や、組織への貢献行動(助け合いなど)の向上
適切に休むことは、翌日の仕事のパフォーマンスを高め、周囲をサポートする余裕を持つための有効な「投資」であり、合理的な行動だと言えます。
4.これから実践できる4つの効果的な休み方
では、具体的にどのように休むと良いのでしょうか。
ここでは、研究結果を踏まえた効果的な休み方のヒントを4つご紹介します。
①義務的で負担感のある活動を最小限にする
休日に「溜まっていた家事を一気に片付けなきゃ」と予定を詰め込んでいませんか?
上記でご紹介した通り、家事や育児といった「しなければならない」義務的な活動は、リソースの補充を妨げ、「心理的ディタッチメント」や「リラックス」を阻害する可能性があることがわかっています。
大掃除や新年の準備などのタスクは予め計画的に済ませ、休暇中は意識的に「義務」から解放され、自分をいたわる時間を優先することが回復の鍵です。
②あえて「新しいこと・少し難しいこと」に挑戦する
休む方法は、「家で一日中ゆっくりする」だけではありません。
回復経験の重要な要素として「熟達」があります。これは、仕事以外の場面で新しいスキルを学んだり、趣味に没頭して小さな達成感を得たりすることです(Sonnentag, Binnewies, & Mojza, 2008)。
最新のメタ分析でも、「熟達」は他の回復経験と比較して、休み明けの職務パフォーマンスと最も強く関連していることが示されています(Steed, Swider, Keem & Liu, 2021)。
たとえば、料理で新しいレシピに挑戦する、読んだことのないジャンルの本を読破するなど、適度な手応えのある活動を取り入れてみるのはいかがでしょうか。
こうした体験が仕事のストレスから意識をそらし、結果として休み明けに良いスタートを切る活力になります。
➂「自分の時間の使い道」を自分で決める
「せっかくの休みがいつの間にか終わってしまった……」という感覚は、回復の大敵です。
回復を促すもう一つの重要な心理的プロセスが「コントロール」です。これは、自分の自由時間をどのように使うか、自ら決定できているという感覚を指します。
周囲の期待や予定に流されるのではなく、「今日は13時から2時間は自分の趣味に使う」のように、一日のうち短時間でも「自分で決めた予定」を遂行してみてください。
この自己決定感が、心身のリフレッシュを加速させることがわかっています。
④物理的・心理的にデジタルデバイスから離れる
「心理的ディタッチメント」を阻害する最大の要因の一つが、スマートフォン等による仕事との常時接続です。勤務時間外に仕事関連の連絡を確認することは、心理的な「スイッチオフ」を著しく妨げることや、デジタルデバイスを通じた仕事への接触が、睡眠の質を低下させ、疲労を蓄積させる要因となることが指摘されています(Wendsche, J., & Lohmann-Haislah, A., 2017)。
休暇中は、勇気を持って仕事用アプリの通知をオフにする、あるいはPCを物理的に視界に入らない場所に片付けるといった「境界線管理(Boundary Management)」を行うことも、心身を休ませるための重要な一歩となります。
5.まとめ
今回は、普段の休み(勤務時間外)から長期休暇を含め、「効果的な休み方」について最新の研究知見を交えてご紹介しました。
- 物理的に離れるだけでなく、心理的にも仕事から離れることが重要
- 適切な休息は、心身の健康だけでなく、休み明けのパフォーマンスも高めうる
- 休みの日は、義務感に駆られない時間を確保し、自身で予定を立て、時には何かにチャレンジしてみることが回復につながる
仕事と同様、「休み方」にも少しの工夫を取り入れることで、その効果は大きく違ってきます。
今回ご紹介した方法をぜひ参考にしていただき、みなさまが心身ともにリフレッシュできることを願っています。
引用文献
Sonnentag, S., & Bayer, U. V. (2005). Switching off mentally: predictors and consequences of psychological detachment from work during off-job time. Journal of Occupational Health Psychology, 10(4), 393–414.
Sonnentag, S., Binnewies, C., & Mojza, E. J. (2008). "Did you have a nice evening?" A day-level study on recovery experiences, sleep, and affect. Journal of Applied Psychology, 93(3), 674–684.
Sonnentag, S., Venz, L., & Casper, A. (2017). Advances in recovery research: What have we learned? What should be done next? Journal of Occupational Health Psychology, 22(3), 365–380.
Steed, L. B., Swider, B. W., Keem, S., & Liu, J. T. (2021). Leaving Work at Work: A Meta-Analysis on Employee Recovery From Work. Journal of Management, 47(4), 867–897.
Wendsche, J., & Lohmann-Haislah, A. (2017). A Meta-Analysis on Antecedents and Outcomes of Detachment from Work. Frontiers in Psychology, 7, Article 2072.

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