組織心理研究所は、2026年9月5日・6日に開催される産業・組織心理学会第41回大会において、4件の研究成果を発表します。
今回発表するのは、職場AI導入の意味づけと心理的影響に関するプロジェクトの一連研究3件、従業員のウェルビーイングを支えるマネジメント行動の研究1件です。
技術や施策を導入したかどうかだけでなく、働く人がそれをどう受け止め、日々の仕事やウェルビーイングとどのように関わるかを検討しています。
今回発表する4件
● 職場AI導入の意味づけと心理的影響に関する探索的研究(1) 意味づけカテゴリの整理
● 同(2) 適応負担の有無による生成AI利用と自分らしさ感の関連の違い
● 同(3) AI導入に対する捉え方と楽観性の関連
● ウェルビーイングを高めるマネジメント行動診断尺度の開発
職場AI導入を、働く人はどのように意味づけているのか
生成AIをはじめとする職場AIは、業務の効率化や情報処理の迅速化をもたらします。一方で、働く人の役割、自律性、専門性、仕事の意味づけにも影響します。便利な道具として評価しながら、自分の仕事が代替されることへの懸念や、AI出力を確認するための新たな負担を同時に感じることもあります。
そこで一連研究では、勤務先でAIが導入されている就業者400名を対象にWeb調査を行いました。回答者には、仕事に最も影響しているAIを一つ想起してもらい、仕事内容や役割の変化、脅威や不安、メリット、今後生じそうな変化について自由記述で尋ねました。
自由記述は一人につき4件、合計1,600件です。仕事に最も影響しているAIとして生成AIを挙げた人は317名で、全体の79.2%でした。同じ調査データを基礎として、意味づけのカテゴリ、生成AI利用と自分らしさ感、楽観性との関連という三つの観点から分析しました。
便利さと不安は、同じ人の中に併存する
第1の研究では、1,600件の自由記述を10カテゴリに整理しました。
最も多くみられたのは、AIが仕事の質や速さを高め、情報整理、発想、学習、判断材料の拡充につながるとする機能的拡張評価で、88.8%の回答者にみられました。
一方、AIによる業務の代替、専門性や役割価値の低下などを含む代替・価値侵食懸念は41.0%、AI出力の誤りや不正確さ、確認や修正の手間に関する正確性・信頼性・確認負荷は23.5%にみられました。AIを使いこなすための学習や新しい技能への対応を表すAIリテラシー・再学習圧力も8.5%にみられました。
一つの記述に複数の意味内容が含まれる場合は複数カテゴリを付与しているため、これらの割合は重複します。便利さを評価している人が、同時に代替への懸念や確認負荷を感じている場合もあります。
また、影響がない、変化が分からない、まだ判断できないとする記述も49.5%の回答者にみられました。職場AIへの反応は、前向きか否定的かという一方向の評価だけでは把握しきれません。
前向きに利用していても、適応負担があれば自分らしさには結びつきにくい
第2の研究では、自由記述を別の観点から、前向き意味づけ、適応負担、代替脅威に分類しました。
そのうえで、生成AIの利用頻度と、仕事における自分らしさ感との関連を検討しました。自分らしさ感とは、自分らしく働いていると感じる程度を指します。
生成AIを前向きに意味づけている人のうち、確認負荷や再学習圧力などの適応負担を伴わない場合には、利用頻度と自分らしさ感に正の関連がみられました。
一方、適応負担を伴う場合には、利用頻度と自分らしさ感との正の関連はみられませんでした。さらに、自分らしさ感の下位尺度である仕事上の所属感とは負の関連がみられました。
生成AIを便利だと考えていることと、負担なく利用できていることは同じではありません。AIを前向きに評価している従業員であっても、出力の確認や継続的な学習に追われていれば、利用が自分らしく働く感覚につながらない可能性があります。
楽観的な人も、AIへの懸念を感じていないわけではない
第3の研究では、AI導入に対する自由記述を、ポジティブ、ネガティブ、中立・不明、両方に分類し、個人の楽観性との関連を検討しました。
ポジティブな回答の割合は、楽観性が低い群では42.8%、中程度の群では53.7%、高い群では59.9%でした。統計モデルでも、楽観性が高いほどポジティブな回答をしやすいという関連が確認されました。
一方、ネガティブな回答は、楽観性が低い群で22.0%、中程度の群で20.2%、高い群で23.0%でした。楽観性が高くなるほどネガティブな回答が減るという傾向はみられず、統計モデルでも明確な関連は確認されませんでした。
楽観的な人はAI導入の肯定的な側面を見つけやすいものの、否定的な側面を認識しにくいわけではありません。AIに前向きな従業員であっても、不安や懸念を別に抱えている可能性があります。
利用率だけでは、職場AI導入の状態を把握できない
三つの研究から、AIを利用していること、AIを前向きに評価していること、心理的な負担がないことは、それぞれ異なる状態だと考えられます。
企業が職場AIを導入する際には、ツールの配布や利用方法の研修だけでなく、出力確認にかかる負担、新しい技能を学ぶための時間、役割や責任の変化についても扱う必要があります。
利用者数や利用頻度が高くても、従業員が確認作業や再学習に追われ、仕事上の所属感を損なっている可能性があります。利用促進だけでなく、どのような意味づけや負担を伴っているかまで把握することが、導入後の支援を考える手がかりになります。
従業員のウェルビーイングを支える管理職行動を測定する
職場のウェルビーイングには、仕事内容、人間関係、業務負担、ワーク・エンゲイジメント、心身状態など、複数の要素が関わります。
これまでの研究から、従業員側で測定されるウェルビーイングの要素は、内容ごとに区別できることが示されてきました。一方、管理職が、それぞれの要素を高めるために自分がどのような行動をとればよいかを把握する手段は十分ではありませんでした。
そこで、仕事内容の促進、人間関係の促進、業務負担の改善、サーベイ活用という4領域、19下位因子からなるマネジメント行動診断を作成しました。複数企業の管理職127名を対象に、独自に作成した135項目への回答を求め、項目分析を経て75項目を採用しました。
人を支える行動は、領域を越えてまとまっていた
採用した75項目は、尺度全体と4領域のいずれでも一定の内的整合性を示しました。
一方、因子構造は当初の想定とは異なっていました。仕事内容、人間関係、業務負担を支える行動は、管理職の自己評定では領域ごとに明瞭に分かれず、全般的なマネジメント・コンピテンシーと呼べる大きなまとまりに収束しました。
比較的独立していたのはサーベイ活用です。サーベイ結果の閲覧や記録、結果を用いた振り返りや関係者との連携は、日常的な対人支援とは異なる行動として認識されていました。
この結果から、仕事内容、人間関係、業務負担のどれか一つを支えようとする行動も、管理職本人の認識では、人を支える全般的な姿勢として現れやすい可能性があります。
一方、サーベイを閲覧し、結果を記録し、振り返りや連携に用いる行動は、日常的なマネジメントとは別に身につける必要があると考えられます。
今回の調査は管理職本人の自己評定を扱ったものです。今後は、管理職の行動得点と部下側のウェルビーイング指標を照合し、どのような行動が実際のウェルビーイングと結びつくのかを検証します。
5件の研究に共通する視点
職場AIと管理職行動は異なる研究テーマですが、技術や施策がそれ自体で一律の効果をもつのではなく、働く人や管理職がそれをどのように捉え、日々の行動に結びつけるかを検討している点は共通しています。
組織心理研究所では、職場で生じる課題を心理学的な概念に置き換え、調査設計、心理測定、統計分析を通じて検証しています。今後も研究成果を学会や論文で公表し、プロダクト開発や組織支援へつなげていきます。
発表情報
大会名
産業・組織心理学会第41回大会
発表一覧
職場AI導入の意味づけと心理的影響に関する探索的研究(1)
自由記述にもとづく意味づけカテゴリの整理
発表者:丹野 宏昭、佐藤 真美華、山田 圭介、佐藤 映
職場AI導入の意味づけと心理的影響に関する探索的研究(2)
適応負担の有無による生成AI利用と自分らしさ感の関連の違い
発表者:佐藤 真美華、山田 圭介、丹野 宏昭、佐藤 映
職場AI導入の意味づけと心理的影響に関する探索的研究(3)
AI導入に対する捉え方と楽観性の関連
発表者:山田 圭介、丹野 宏昭、佐藤 真美華、佐藤 映
従業員のウェルビーイングを高めるマネジメント行動診断尺度の開発
職場のウェルビーイング調査票との構造的対応の検討
発表者:佐藤 映
所属
佐藤 映、丹野 宏昭、山田 圭介
株式会社リーディングマーク 組織心理研究所
佐藤 真美華
組織心理研究所 客員研究員
発表日、会場
2026年9月5日(土)
慶応義塾大学 日吉キャンパス 来往舎
詳細は大会プログラムにてご確認ください。




