候補者は、採用プロセス全体から企業を判断しています。
前回は、採用広報、説明会、インターンシップ、社員接点などが、候補者にとって組織を推論する手がかりになると述べました。入社前の候補者は、職場の実態を直接経験できません。そのため、採用接点で見聞きした情報から、この会社では人がどう扱われるのか、この会社で働くと何が起きそうかを推論します。
その中でも、選考体験は特に大きな意味を持ちます。
面接は、企業が候補者を見極める場です。しかし同時に、候補者が企業を見極める場でもあります。この二面性を見落とすと、面接は評価の精度だけを高める場になってしまいます。
もちろん、選考で候補者を適切に評価することは重要です。
ただ、候補者の側から見れば、面接は自分がこの会社でどう扱われるかを経験する場でもあります。面接官がどのように話を聞くか。質問にどの程度具体的に答えるか。選考の流れがどれだけ説明されるか。連絡が遅れたときに、理由や見通しが伝えられるか。
こうした経験は、単なる選考運営の印象にとどまりません。この会社は信頼できるのか。自分は大切に扱われているのか。入社後も必要な情報を得られそうか。
候補者は、選考中の出来事を通じて、企業との関係に入ってよいかを判断しています。
選考は、選別であり誘引でもある
採用プロセスには、二つの側面があります。
一つは、企業が応募者を評価する選別です。企業は、候補者の能力、経験、価値観、職務への適性を見て、自社に合う人材かどうかを判断します。
もう一つは、候補者が企業を評価する誘引です。候補者は、企業がどのような情報を提供するのか、面接官がどのように接するのか、選考の中で自分のことをどの程度理解しようとするのかを見ながら、その企業で働くことを検討します。
林(2009)は、日本の新卒採用プロセスを、企業が応募者を評価する選別と、応募者が企業を評価する誘引の二面から整理しています。製造業大手A社の内定者データを用いた分析では、会社説明会の印象、面接担当者の行動や態度、面接での十分な情報提供が、内定者の企業認識にプラスに働くことが示されています。
この視点は、採用実務にとって重要です。
面接官は、候補者を見ています。しかし、候補者も面接官を見ています。企業は候補者に質問しています。しかし、候補者も企業の答え方を見ています。
企業が選ぶだけではなく、候補者も選んでいる。売り手市場だからそうなったというだけではありません。採用という場面そのものが、もともと相互評価の場なのです。

選考体験は、組織魅力や受諾意向と関わる
採用研究でも、選考体験は候補者の企業評価に関わる要因として扱われてきました。
Chapmanら(2005)のメタ分析では、71研究、667係数を統合し、仕事・組織特性、採用担当者の行動、採用プロセスの知覚、知覚された適合感、採用期待が、組織魅力、応募継続意図、受諾意向、実際の職業選択と関連することが示されています。採用担当者や面接官の行動、採用プロセスの知覚は、候補者の態度や意図と無関係ではありません。
ただし、ここでは少し慎重に受け取る必要があります。
採用研究では、組織魅力や受諾意向を扱う研究が多く、実際にその企業のオファーを受けたかどうかまで追った研究は相対的に限られています。つまり、選考体験が良ければ必ず承諾率が上がる、と単純に言い切ることはできません。
それでも、選考体験が承諾判断の前提をつくることは十分に考えられます。候補者が選考の中で、納得できる説明を受けた、敬意をもって扱われた、自分の力を示す機会があった、と感じるかどうかは、企業に対する信頼や安心感につながります。
内定承諾は、条件表だけを見て決まるものではありません。候補者は、採用プロセスの中で、この会社と関係を結んでよいかを少しずつ判断しています。
公正に扱われた感覚は、関係に入る判断材料になる
選考体験の中でも、公正感は重要です。
公正感とは、単に合否が妥当だったと感じることだけではありません。
・手続きが納得できるか
・自分の力を示す機会があったか
・評価の観点が職務と関係していると感じられるか
・十分な説明を受けたか
・敬意をもって扱われたか
こうした経験を含みます。
Haroldら(2016)は、米軍応募者を対象に、採用プロセスに対する公正感が実際のオファー受諾に関わるかを検討しました。この研究では、組織イメージ、親近性、P-O fit、採用担当者行動などと比較しても、公正感がオファー受諾を説明する重要な要因として示されています。
同研究の別サンプルでは、相互作用的公正感(相手から敬意をもって扱われたか、誠実に対応されたかに関わる感覚)が高いほど受諾の確率が高く、手続き的公正感(考の進め方や判断過程が納得できるかに関わる感覚)も受諾に関連していました。
候補者は、選考の中で以下のような不確実な状況に置かれています。
・自分はどう評価されているのか
・次に何が起きるのか
・どこまで情報を信じてよいのか
・この会社は自分を単なる応募者の一人として扱っているのか
・それとも一人の人として向き合っているのか
この不確実性の中で、公正に扱われたという感覚は、企業への信頼を支える手がかりになります。反対に、説明がない、態度が雑である、面接官によって言っていることが違う、評価の観点が見えない、といった経験は、企業への不信に変わりやすいです。
候補者が選考で感じる不信は、面接室の中だけで終わりません。内定後の比較場面にも残ります。
面接官は、企業の縮図として見られる
面接官や採用担当者の印象は、その人個人への印象にとどまりません。候補者は、その人を通じて企業を見ています。
この面接官は、自分の話を理解しようとしているのか。質問にきちんと答えられるのか。自社の仕事を具体的に説明できるのか。良い面だけでなく、難しい面も話せるのか。
候補者は、こうした情報から、この会社の人はどのように働いているのか、自分が入社したあとにどのような関わりを受けるのかを推論します。
Breaugh(2008)は、採用担当者やリクルーターが候補者に影響する理由として、提供できる職務情報の量、候補者から見た信頼性、候補者に与えるシグナルの違いを挙げています。採用担当者の属性そのものよりも、どのような情報を持ち、どの程度信頼され、何を象徴しているかが重要だということです。
ここで誤解してはいけないのは、面接官はとにかく感じよく振る舞えばよい、という話ではないことです。
候補者に好かれることと、信頼されることは同じではありません。自社の魅力を熱心に語ることと、候補者の判断に必要な情報を渡すことも同じではありません。
むしろ、過剰に口説こうとする面接は、候補者に警戒されることがあります。
「この会社は良いことしか言わないのではないか」
「自分を理解するより、入社させることを優先しているのではないか」
そう受け取られると、面接の熱量は逆効果になりかねません。
面接官に求められるのは、候補者を説得する話術ではありません。候補者が判断するために必要な情報を、具体的に、誠実に、職務や組織の現実と結びつけて伝えることです。
連絡の速さも、組織のシグナルになる
選考体験は、面接中だけで作られるわけではありません。
面接前の案内、日程調整、結果連絡、次のステップの説明、質問への返答。こうした周辺のやり取りも、候補者にとっては選考体験の一部です。
特に、連絡の速さは軽視できません。
Becker, Connolly, & Slaughter(2010)は、1社のフィールドデータ3012名を用いて、最終面接からオファー提示までの時間とオファー受諾の関係を検討しました。その結果、学生候補者でも経験者候補者でも、早く提示されたオファーほど受諾されやすいことが示されました。一方で、早いオファーで採用された人と遅いオファーで採用された人の間に、業績評価や離職率の差は見られませんでした。
この知見は、採用実務にとってわかりやすい示唆を持ちます。選考後の連絡が早いこと、次のステップが明確であること、オファーまでのプロセスが滞らないことは、候補者に対して関心や期待を示すシグナルになります。
反対に、連絡が遅い、理由が説明されない、次に何が起こるのかわからないという経験は、企業側に悪意がなくても、候補者の不安や不信の材料になりうるのです。
ただし、早く動くことと、急がせることは違います。
早く連絡することは、候補者に判断材料を早く渡すことです。一方で、短い期限で承諾を迫ることは、候補者の比較や納得を浅くする可能性があります。内定承諾率を高めるために必要なのは、候補者の判断時間を奪うことではありません。判断に必要な情報を遅らせないことです。
選考体験を設計する
選考体験をよくするというと、面接官の印象をよくすることや、候補者に丁寧に接することが思い浮かびます。もちろん、それは大切です。ただ、それだけでは不十分です。
候補者が納得できる選考体験には、いくつかの要素があります。
まず、選考で何を見ているのかが候補者に伝わることです。
評価基準をすべて開示する必要はありませんが、どのような経験や能力を確認したいのか、なぜその質問をするのかが職務や組織とつながっている必要があります。候補者が、自分は何を示せばよいのかわからないまま面接を受けると、結果にかかわらず不透明感が残ります。
次に、候補者が自分の力を示す機会を持てることです。
質問が一方的である、深掘りがない、表面的な会話で終わる。そうした面接では、候補者は自分を見てもらえたという感覚を持ちにくくなります。自分を見てもらえなかったという感覚は、この会社に入っても自分を理解してもらえないのではないかという不安につながります。
さらに、情報提供が十分であることです。
仕事内容、配属、評価、育成、働き方、職場の難しさなどは候補者が求めている情報です。逆に不足すると不安に感じる情報であるのに、企業は曖昧にしがちです。しかし、曖昧なままにされた情報ほど、候補者の比較場面では大きく残ります。
最後に、接点の一貫性です。以下のような不一致は、候補者にとって重要なシグナルになります。
・採用広報では挑戦を歓迎すると言っていたのに、面接では失敗経験を否定的にしか扱わない
・説明会では若手の裁量を強調していたのに、現場社員の話では意思決定の余地が見えない
・人事と現場で、配属や評価に関する説明が食い違う
企業側は小さな言葉の違いだと思っていても、候補者はそこから入社後の現実を推論します。
選考体験は、候補者を説得する場ではありません。候補者が、この会社を選んでよいかを判断するための経験です。
だからこそ、面接官の態度、説明の具体性、連絡の速さ、選考手続きの納得感は、内定後の承諾判断にも残ります。候補者は、条件だけを比較しているのではありません。採用プロセスを通じて、この会社と関係を結んでよいかを見ています。
内定承諾率を高めるとは、最後に強い言葉で口説くことではありません。候補者が選考の中で、公正に扱われた、必要な情報を得られた、自分のことを理解しようとしてもらえた、と感じられる経験を積み重ねることです。
次に考えるべきなのは、候補者が何との適合を確かめているのかです。仕事なのか、組織なのか、条件なのか。その違いを見ないまま魅力を語っても、候補者の納得には届きにくいのです。
(組織心理研究所 主任研究員 丹野宏昭)
文献
Becker, W. J., Connolly, T., & Slaughter, J. E. (2010). The effect of job offer timing on offer acceptance, performance, and turnover. Personnel Psychology, 63, 223-241.
Breaugh, J. A. (2008). Employee recruitment: Current knowledge and important areas for future research. Human Resource Management Review, 18, 103-118.
Chapman, D. S., Uggerslev, K. L., Carroll, S. A., Piasentin, K. A., & Jones, D. A. (2005). Applicant attraction to organizations and job choice: A meta-analytic review of the correlates of recruiting outcomes. Journal of Applied Psychology, 90, 928-944.
Harold, C. M., Holtz, B. C., Griepentrog, B. K., Brewer, L. M., & Marsh, S. M. (2016). Investigating the effects of applicant justice perceptions on job offer acceptance. Personnel Psychology, 69, 199-227.
林祐司(2009). 新卒採用プロセスが内定者意識形成に与える影響――製造業大手A社のデータを用いて――. 経営行動科学, 22, 131-141.




