はじめに
前回の記事では、行動の前後にある環境を、
A:Antecedent(先行事象)
B:Behavior(行動)
C:Consequence(結果)
の3つに分けて考える「ABC分析」を紹介しました。
今回は、この中でも特にC(Consequence:結果)に注目します。
部下に「何をしてほしいか」を伝えるだけではなく、
「その行動をしたら、部下にとって何が起こる職場になっているのか」
を考えてみましょう。
行動は「その後どうなったか」に左右される
本連載の第1回では、「強化」という考え方を紹介しました。
行動分析学では、ある行動の後に何らかの出来事が起こり、その結果として、その行動が将来的に増えることを強化と呼びます。
例えば、部下が会議で自分から発言したとします。
その直後に上司から、
「今の意見、助かったよ。あの視点はなかった」
と言われ、その後も自分から発言することが増えたのであれば、この上司の反応は発言行動を強化するものとして機能した可能性があります。
ここで重要なのは、上司が「褒めたかどうか」だけではありません。
その結果として、次の行動がどう変わったかです。
そして、この「行動の後に何が起きたか」が、ABC分析におけるCです。
マネジメントでは、
「どう指示するか」
「どう目標を設定するか」
「どう伝えるか」
といった、行動の前にあるAに注目しがちです。
しかし、望ましい行動を続けてもらうためには、その行動の後に待っているCにも目を向ける必要があります。
「叱る」だけでは望ましい行動は増えない
Cについて考えるとき、「望ましい行動を増やす」だけでなく、「望ましくない行動を減らす」という側面もあります。
例えば、部下が会議に何度も遅刻してくるとします。
そのとき上司が、
「また遅刻したの? 次から気をつけて」
と厳しく注意した結果、その後の遅刻が減ったとしましょう。
このように、ある行動の後に何らかの結果が生じ、その結果としてその行動が将来的に減少することを、行動分析学では「弱化」と呼びます。
日常的には、望ましくない行動を減らすために「叱る」「注意する」「ペナルティを与える」といった、いわゆる「罰」を用いた対応がとられることがあります。
組織における罰の効果については古くから研究されており、望ましくない行動を抑制する可能性がある一方、その効果や副作用を考慮する必要性が指摘されています(Arvey & Ivancevich, 1980)。
また、Sims(1980)のレビューでは、罰的なリーダー行動よりも、報酬を用いたリーダー行動の方が従業員のパフォーマンスに強く関連する傾向が報告されています。
罰については、行動分析上、一つ大きな問題があります。
それは、望ましくない行動を減らすことと、望ましい行動を増やすことは同じではないということです。
例えば、
会議に遅刻する→ 上司から叱られる→ 遅刻が減る
という変化が起きたとしても、それだけでは、例えば
「会議の5分前に来て資料を準備する」
といった、上司が思い描く望ましい行動が増えるとは限りません。
あるいは、
会議で不用意な発言をする→ 上司から厳しく注意される→ 不用意な発言が減る
ということはあっても、
「自分から建設的な意見を出す」
という行動まで増えるとは限りません。
つまり、罰を中心としたマネジメントは、「何をしない方がよいか」を学習する機会にはなっても、「代わりに何をすればよいか」を増やす仕組みにはなりにくいのです。
さらに注意したいのは、叱る対象とは別の行動まで減ってしまう可能性です。
例えば、部下がミスについて報告した際に、
「なんでこんなミスをしたの?」
と強く叱責したとします。
上司としては「今後ミスを減らしたい」と考えての対応かもしれません。
しかし、部下にとっては、
ミスを報告する→ 叱られる
というCにもなります。
その結果、ミスそのものではなく、「ミスを早めに報告する」という本来増やしたい行動まで減ってしまう可能性があります。
だからこそ、望ましくない行動を減らすことだけでなく、「代わりにどんな行動を増やしたいのか」までセットで考えることが重要です。
例えば、ミスへの対応であれば、
「ミスをするな」と叱る
だけで終わるのではなく、
「問題に気づいたら早めに報告する」という望ましい行動を明確にし、その行動が起きたときには本人にとって意味のあるCを返す。
例えば、「このミスは問題だけれど、早めに教えてくれて助かった。」
といった反応によって、早期報告という行動を増やしていくことが考えられます。
ミス自体も、何がミスしないということなのかといった行動を明確にし、ミスしなかった時にフィードバックするといった形で望ましい行動を増やすことができます。

マネジメントの目的は、行動分析で見れば、単に「困った行動をなくすこと」ではなく、「組織にとって望ましい行動を増やすこと」のはずです。
そう考えると、
「どうすればこの行動をやめさせられるか?」
だけではなく、
「代わりに、どんな行動を増やしたいのか?」
という問いを持つことが重要になります。
同じ「結果」でも、行動への影響は違う
では、どのようなCを設定すれば行動変容につながるのでしょうか。
ここで参考になるのが、OBMで用いられるPIC/NIC分析という考え方です。
PIC/NIC分析では、行動の後に起きる結果を、大きく3つの観点から整理します(Bakalarz, 2023)。
Positive / Negative
本人にとって望ましい結果か、望ましくない結果か
Immediate / Future
すぐに起こる結果か、将来起こる結果か
Certain / Uncertain
確実に起こる結果か、不確実な結果か

この3つを組み合わせて、「その行動の後にどのようなCが待っているのか」を考えます。
ここで特にマネジメントにおいてCを設計する上で重要なのが、「Immediate(即時性)とCertain(確実性)」です。
例えば、会社が、「積極的に新しいことへ挑戦した人は、きちんと評価します」
と掲げていたとします。
しかし、従業員本人から見れば、
挑戦する→ “半年後”の人事評価で評価される“かもしれない”
という結果です。
もちろんこの設計にも非常に意味はありますが、これは本人にとって、将来的(Future)で、不確実(Uncertain)なCです。
一方で、本人が
挑戦しない→ 今すぐ、失敗や批判を避けられる
のであれば、こちらは即時的(Immediate)で、比較的確実(Certain)なCになります。
会社は「挑戦してほしい」と言っている。評価制度でも「挑戦すること」を評価項目に入れている。
それでも日常の職場では、「挑戦しない」という行動の方に、すぐに・確実に得られる結果が存在しているとしたらどうでしょうか。
この見立てを逆手に取ると、挑戦した時に、例えば上司がすぐに、言葉で「よくやったね」とフィードバックするという即時的で確実な設計を加えると、日々の挑戦する行動は増えていきます。
特に即時性については、行動分析学では「60秒ルール」と呼ばれる考え方が紹介されることがあります。
この意味としては、行動の後の直後の結果が、その行動が増えるか減るかを左右するということになります。
ポイントは、行動と、その行動に対する結果との時間的な距離です。
60秒という数字を厳密に守ることではなく、行動の後にできるだけ早く結果を提示することが重要です。
職場で応用する場合、「良い行動を見つけたら、できるだけその場で反応する」くらいに覚えておくとよいでしょう。
Cは「褒める」だけではない
ここまで読むと、「では、望ましい行動をしたら、すぐに褒めればいいのか」と思うかもしれません。
しかし、Cは上司からの褒め言葉だけではありません。
例えば、
顧客から感謝される
自分の提案が実際に採用される
成果が数字として見える
仕事が効率化され、自分自身も楽になる
周囲から頼りにされる
より裁量のある仕事を任せてもらえる
といったものも、行動の後に生じる結果として考えられます。
大切なのは、
「上司が何を与えればよいか」ではなく、「その人にとって、どのような結果が次の行動につながっているか」
を見ることです。
さらに理想的なのは、上司が毎回何かを与えなくても、仕事そのものから本人にとって意味のあるCが返ってくる環境をつくることです。
例えば、業務改善を提案した結果、実際に自分たちの仕事が楽になった。
顧客への対応を工夫した結果、顧客の反応が直接見えるようになった。
ありがとうカードで感謝を伝え合う取り組みをした結果、相手から感謝が返ってきた。
こうしたCが日常の仕事の中に組み込まれていれば、上司が毎回「よくやったね」と声をかけなくても、望ましい行動が続きやすくなる可能性があります。
ここまでのまとめ
では、自分の職場のCを見直すとしたら、何から始めればよいのでしょうか。
まず、増やしたい行動を一つ決めることから始めます。
例えば、「問題が小さいうちに、部下が上司へ報告する」とします。
次に、
その行動をした直後、今の職場では何が起きているか?
を書き出してみます。
もし、
早く報告する
→ 細かく原因を追及される
→ 追加資料を作ることになる
となっているのであれば、望ましい行動に対して、その行動を減らす方向に働きうるCが存在しています。
そこで、次の3点から見直してみます。
① 望ましい行動の後に、本人にとって意味のあるCがあるか
例えば報告なら、「早く教えてくれて助かった」と返される、早く問題解決が進む、といった結果です。
② Cはできるだけ行動の近くにあるか
長い目で見た時の評価だけでなく、日々の仕事の中でもできるだけその場でフィードバックすることを意識します。
③ 望ましい行動を、意図せず減らすCがないか
質問すると嫌な顔をされる、効率化すると仕事が増える、挑戦して失敗すると責められるなど、組織が求めることと実際のCが矛盾していないか確認します。
まずは上司がCを調整し、その後上司が毎回関わらなくとも本人にとって意味あるCが得られる職場づくりを行う工夫を考えてみることがポイントとなります。
参考文献
Bakalarz, P. (2023). Organizational behavior management: A supplement and alternative to traditional areas of work in the analysis of behavior. Advances in Psychiatry and Neurology, 32(4), 209–214.
Arvey, R. D., & Ivancevich, J. M. (1980). Punishment in organizations: A review, propositions, and research suggestions. Academy of Management Review, 5(1), 123–132.
Sims, H. P., Jr. (1980). Further thoughts on punishment in organizations. Academy of Management Review, 5(1), 133–138.




